「離職の不安」を「定着の自信」に(主体性編) - 介護リーダー育成のエキスパート 社会人基礎力研修|日本キャリアート

「離職の不安」を「定着の自信」に(主体性編)

2020年3月31日

■ごあいさつ

令和元年度も最後の日となりましたが、いまだ新型コロナウイルスの猛威がおさまりません。ある福祉施設では集団感染が発生した、というケースも報道されていました。介護サービス利用者のみなさま、あなた自身のご健康を心から祈念しております。

さて前回(2020年3月11日発信)は、介護リーダーが抱える不安と「社会人基礎力」(経済産業省提唱)との関係についてご紹介しました。まだご覧になっていない方は、下記より「コラムリニューアルのご案内」をご参照ください。

https://www.careert.co.jp/column/

■最近よく耳にする「ノンテクニカルスキル」とは
さて、最近「ノンテクニカルスキル」という言葉をよく耳にするようになりました。特に医療の分野で注目されています。「テクニカルスキル」(医療専門技術)に対して「ノンテクニカルスキル」(非専門技術)と呼ばれ、とくに医師の間で見直されています。今まで専門技術を重視する一方、非専門技術の強化にはあまり取り組んでこなかったことの反省があるようです。

しかし、この「ノンテクニカルスキル」こそ「社会人基礎力」のことであり、その必要性が高まっているのは医療業界だけではなく、介護業界にも通じるこだと思います。そこで今後、このメルマガでは「社会人基礎力/ノンテクニカルスキル」と呼んでいきたいと思います。

■介護職の離職理由
さて、本日は「3つの力」のうち、「前に踏み出す力」の「主体性」を取り上げていきたいと思います。

主体性とは「物事に進んで取り組む力:例)指示を待つのではなく、自らやるべきことを見つけて積極的に取り組む」と定義されています。これは、いまの若手に最も足りない力だとも言われています。

ここで「介護労働の現状について」(平成30年度介護労働実態調査の結果と特徴~公益法人介護労働安定センター~)から、離職理由をみてみましょう。

特に前職が介護関係の仕事という方が仕事を辞めた主な理由として、結婚・出産・育児のため、収入が少なかったため、職場の人間関係に問題があったため(部下の指導が難しい、自分と合わない上司や同僚がいる)、法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため(前職が介護以外の場合と比較すると2倍)、などという理由があげられています。

この理由の中には、私たちの力でなんとかなる理由と、私たちの力だけではいかんともしがたい理由が混在しているようです。

■ 詩「祈り」(ライン・ホールド・二―バー)
私がよく思い出す詩に、ライン・ホールド・二―バーの「祈り」があります。

「神よ与え給え、変えられぬものを受け容れる潔さと、変えられるものを変える勇気と、それを見分ける知恵を」

私はこの詩を思い出すたびに、「変えられぬもの」を無理に変えようとしたり、「変えられるもの」を変えようとしなかったりすることを反省させられています。

上記の離職理由を見てみますと「結婚・出産・育児のため」「収入が少なかったため」は、なかなか私たちの力だけでは解決が難しそうです。一方「職場の人間関係に問題があったため」「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」は、私たちの力によって改善できそうに感じるのですが、いかがでしょうか。

同じ資料のうち「現在の法人(職場)に就職した主な理由」をみてみますと、「働きがいのある仕事だと思ったから」「人や社会の役に立ちたいから」「法人の方針や理念に共感したから」があげられています。

このような期待を抱いて就職しながら実際の現場とは大きなギャップがあったならば、失望から離職を考えることもあるかも知れません。

離職理由のうち 「職場の人間関係」については、3つの力のうち「チームで働く力」にてご紹介していきたいと思います。ここでは「施設・事業所の理念や運営のあり方」についてみていきたいと思います。

 ■「経営理念」の周知と実践

施設・事業所の理念や運営のあり方を示したものに「経営理念」があります。

経営理念とは「組織のあるべき姿、社会に対する存在意義を明らかにするとともに、それを実現するための全社員共通の基本姿勢、行動基準を明文化したもの」です。組織によっては、ミッション(使命)、バリュー(価値観、判断基準、行動指針)などと呼んでいる場合もあります。

この経営理念を定めていない組織はないと思いますが、残念ながら周知されていない、実践されていないという組織は、少なくないようです。この経営理念が職員一人一人に周知され、それぞれの職場にて実践されていけば、先ほどの志望動機は満たされ、離職理由は減り、定着化が促進されるのではないでしょうか。

■たとえば「利用者の尊厳」

介護施設や事業所の経営理念によく「利用者の尊厳を守り」という表現が見られます。では、以下の質問について考えてみてください。(Q:質問、A:回答例)

Q:そもそも「利用者の尊厳」て、何ですか?
A:尊厳とは「介護が必要となってもその人らしい生活を自分の意思で送ることを可能とすること」(高齢者介護研究会報告書から)
Q:「利用者の尊厳を重視」するとは、どのような言動ですか?
Q:「利用者の尊厳を重視」しないとは、どのような言動ですか?
A:利用者や職場スタッフへのヒアリングし「すべきこと/してはいけないこと」を一覧表にまとめました。
Q:それらは、職場スタッフで共有されていますか?
A:一覧表を職場掲示・カード化して携行、チェックリストによる定期的チェックしています。

いかがでしたでしょうか。あなたの施設や事業所では大丈夫だと思いますが、「経営理念」がお飾りの言葉になっているケースも少なくないように感じられます。私が伺う他業界のリーダー研修でも、経営理念をリーダー自身が十分に知らない、部下に周知させていない、職場にて実践できていないというケースは多く聞かれます。

経営理念は立派でも、それを周知し実践していくことはなかなか難しいものです。しかし、そこへの取り組みこそ、離職理由のひとつ「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」への有効な対策となり、また定着だけではなく職員スタッフのモチベーションUPにもつながるのではないでしょうか。

経営理念を理解し、その実践のために前向きに日々取り組んでいる職員スタッフは、きっと辞めないと思うのです。特に、辞めては困るような「志が高い職員スタッフ」ほど。

■「3人の石切工」(ピーター・ドラッガー)

経営学の父といわれ「もし高校野球の女子マネージャーが『マネジメント』を読んだら」で有名なピーター・ドラッガーが「マネジメント」の中で「3人の石切工」の話を紹介しています。

(真夏の建設現場を通りかかった旅人から)何をしているのかと聞かれ、

第一の男は、苦しそうに「これで暮らしを立てているのさ」と答えた。

第二の男は、槌で打つ手を休めず「国中でいちばん上手な石切り工の仕事をしているのさ」と答えた。

第三の男は、その目を輝かせ夢心地で空を見あげながら「大寺院をつくっているのさ」と答えた。

どの石切工が最も生産性が高いでしょうか、長く続けられるでしょうか、あなた職場のスタッフはどの石切工に近いですか?

■これから取り組んでいただきたいこと

このような試練の時だからこそ、施設や事業所にとっては経営理念が、あなたにとっては主体性が強く問われているように感じられます。

ぜひあなたの職場で施設や事業所の「経営理念」をふり返り、そのうち「実践できていること」と「実践できていないこと」をそれぞれ書き出し、実践できていないことをどう実行していくか、話し合ってみていただきたいと思います。

■おわりに

次回は、今回確認していただいた経営理念のうち、「できていないこと」をどのように実行していくか、についてご紹介していきたいと思います。「3つの力」のひとつ「前に踏み出す力」のうち「実行力」の部分となります。「やろうと思いながら、ついつい・・・」などという方は、ぜひお読みください。4月中旬に配信させていただく予定です。

その頃には、新型コロナウイルスも沈静化していることを期待したいと思います。

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